旅・散歩

【地元再訪】竹と和紙と電球の温度・石塚商店【湯島】

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

地下鉄千代田線湯島駅3番出口を上がってすぐ。
ほんのりと机を照らす明かりに惹かれて近寄り、覗き込んでいたところ、シャッターを下ろしに来た奥様のご厚意で閉店間際にお邪魔させていただきました。
消灯ずみにもかかわらず、せっかくだからといくつかの照明に明かりを入れていただくことに。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

照明は明かりを入れると表情が変わるとよく聞きますが、思わずため息が漏れるほど。
かすかに聞こえる地下鉄の音と相まって、銀河鉄道の夜を思い出させる幻想的な光景でした。

石塚商店は元々、照明器具の販売を行っていたわけではなく、竹で編んだ様々な生活用品を扱っていたのが始まりなのだとか。
そのため「竹屋さん」と呼ぶ古馴染みも多かったそう。
照明器具の製造販売は遡ると大正時代以前のカタログが残るほどの歴史を持つという石塚商店は、現在は奥様お一人で在庫の処分がほとんどだそうです。
というのも「つくる人がもうどこにもいなくなってしまった」からなのです。
そもそも、石塚商店は一般的な照明器具販売店ではなく、オーダーメイドの照明器具を販売していた会社なんです。そのため、店舗自体も基本的に商品サンプルを展示する場所であって、そのものを販売する目的で置いているわけではありません。
石塚商店の照明器具は、持ち込まれた設計やイメージにご主人が手を加え、明かりが灯った時の光陰が絶妙になるよう加減されていました。
その数値では表現しにくい部分が様々な大手メーカーや寺社仏閣、著名人、有名料亭などから愛され、現在も様々な場所で灯りを灯しています。
中でも最も有名な場所は、靖国神社の茶室。和の空間の最たる場所にぴたりと作られた照明が石塚商店の作です。

竹以外にも細かな木製の細工や鋳物、板金加工など、素材によって光の加減が変わる照明は、奥様が和紙の張り付け、張替えを行ったものも多く「あれもこれもみーんな私がやったの!」と言われてその数にびっくり。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

やわらかな曲線を描く縁にそってシワ1つなくぴんと張られた和紙は、明かりに干渉しないよう枠に紙の合わせを重ねるのが難しいのだそう。
「嫁の労働はタダだからね。年の瀬なんか赤坂の料亭の外で主人と二人して夜の10時過ぎに宴会が終わるまでじっと待って、お客さんが誰もいなくなったらさっと入って照明を全部外して持ち帰って、きれいに張り替えて新年の5日までに付け直したりなんかしたのよ」
朗らかに笑う奥様は、育児、介護をこなしながら石塚商店の照明を支えてきました。
分厚いアルバムに記録されたたくさんの照明は、ここでなければ手に入らない貴重な職人芸であり、そして同時に失われてしまった技術が灯す最後の明かりでもあります。

実はご主人は6年前に亡くなられ、ご主人より高齢だったという竹細工職人とは既に連絡を取らなくなって久しく、今となっては消息がわからないのだとか。
「照明が好きでなきゃやってられない仕事」と言う奥様の温かい眼差しを照らす、竹細工の照明。
職人は竹が一斉に枯れてしまう自然現象によるトラブルや、仕事量の減少による単価の高騰、バブル崩壊などが重なって、技術を継ぐ人がいなかったのだそうです。
行政が支援に乗り出した時には既に時遅く、職人自身が高齢になり、思うように技術継承が行われないままに。
そしてかつては身近だった竹編み細工と照明器具を繋いだご主人によるデザインの妙も、今は図面の上にデータだけが残されています。

照明の光源も、石塚商店の歴史とともに大きく変わっています。
2008年4月に自主的生産終了が呼び掛けられた白熱灯は、2015年現在、一部の特殊な電球を除いて国内のほぼ全社で生産が終了しました。
エコ&長寿命の先駆けになった電球形蛍光灯も、販売数の減少にともなって現品のみとするメーカーが増えて、店頭から姿を消す日も遠くないのでしょう。
かつてろうそくを灯した行灯に電球が入ったように、時代は着実にLED照明へと移り変わっています。
残せなかったものと、これからでも残せるもの、そしていつまでも消えないもの。
久々の電球の明かりを楽しみながら、いろいろと考えさせられた夜でした。

ABOUT ME
わたぬき
人生脱線しっぱなしの、アラフォーのゆるいおひとりさまライター。 人生の3分の2を腐女子として熟成して過ごし、漫画もアニメもゲームも大好き。 普段はIT系の情報系コラムや記事の他、取材やインタビューを中心に地域情報やライフハックを執筆。 大人の発達障害の壁にぶつかり、人様の助けを借りながら試行錯誤の毎日。ドロップアウトしたっていいじゃない。
【家飯】家で食ってよし、外で食ってよし!!美味いものは美味い!【外飯】

わたぬきの手抜きだが美味い家飯レシピや、手抜き燻製話、食べ歩きのオススメ店を紹介してます。
美味いものは美味い。どこで食っても美味い。

【家飯】お手軽でおいしい時短レシピ

ADHDゆえに気が散りまくるわたぬきにとって、究極のマルチタスクである調理は鬼門。しかし食い意地が張っているので美味いものが好きだ。
そこで捻り出し編み出した10~20分で仕上がるシンプルだが美味いレシピをご紹介しよう。

修羅場の150円飯シリーズ

1食水道光熱費込で150円、15分以内で作る、修羅場の貧乏飯。フリーランスは体が資本、修羅場だからってエナドリだけ飲んでりゃいいわけではないのです。
野菜も喰う、肉を諦めない。

https://noni-no.net/meshi/2410.html

【修羅場の】ひき肉と長ねぎの和風パスタ【150円貧乏飯】秋になったのにちっとも涼しくなりませんが、給料日前なので財布はとっても涼しいです。 ということで150円飯のルールは3つ。 1)...

https://noni-no.net/meshi/577.html

https://noni-no.net/meshi/358.html

自家製燻製作りは人生が変わるぞ!

修羅場を挟んだ時期に買いだめした肉を駄目にしてたんだけど、最近、燻製を覚えて席を立てない忙しい時期が「肉を仕込んで美味くする楽しい時間」に変わったよ。
もう緑色になっちゃってバイバイするお肉は冷蔵庫にいないんだ!!

【家飯】簡易燻製器「もくもくクイックスモーカー」が楽しすぎてひとり酒が捗る件燻製。それは自宅でやるにはいろいろな意味でハードルの高い料理。 器具も高そうだし、下準備もなんかめんどくさそうだし…。 大体イメージ...
【家飯】百均グッズ1000円で作れる自作燻製機で、自家製ベーコンを作ってみた【燻製】【前回のあらすじ】 卓上で燻製ができる「もくもくクイックスモーカー」を入手したわたぬきは、燻製の旨さを知った。 チーズもソーセージも...

わたぬきが美味いと言った店ははずさない

味の好みはあれど、私が紹介して美味いと言った店ではずした店はない(わたぬき調べ)
食べ歩きしてオススメしたい店を紹介していくよ。0.1トンのわがままボディを作った罪な店たちだ。

https://noni-no.net/meshi/189.html

【肉】洋食屋せんごく本郷店【ステーキハンバーグ】本郷もかねやすまでは江戸のうち。 かねやすのある本郷三丁目交差点にある洋食屋せんごく本郷店。本店の春日店は昭和45年創業。 本郷三丁...
【ランチ】肉バル style2【岩本町】秋葉原から少し離れて岩本町方面へ出ると、がっつりとオフィス街。 飲食店もそこそこあるしお弁当屋もあるんですが、人口に対して十分とは言え...
【カフェ】カヤバコーヒーでタマゴトーストと大正を味わう【谷根千】下町情緒が残る東京の中心エリアといえば、谷根千。 谷中・根津・千駄木をまとめて「谷根千」。 猫散歩エリアとしても名高い谷根千は、カメ...
【肉】肉ソン大統領で山盛り2.9kgの肉を食い尽くす【秋葉原】世間が米大統領選挙で賑わう中、ひと目見たら忘れられないその名前…肉バル「肉ソン大統領」。 友人に名前を聞いて以来気になって気になってし...
【肉ランチ】フレンチ食堂ぶどうでミートボールのラグーを食し女子力を上げる【岩本町】食い道楽とスマホの話しかしてませんが、私は元気です。 ポッキーとプリッツの日ですがやる相手なぞおりませんが、私はとても元気です。 ダ...
【カフェ】横浜中華街・同發でマーライコーのフレンチトーストを食す【散歩】冬になりきる前のこの季節、天気のいい日の散歩は最高ですな。 中華街には!!リア充とリア充とリア充が溢れてるけど!! 喪仲間の友人とふ...
【秋葉原】魚好きなら赤身が旨い「マグロの一徹」!!だが入り口はハードモードだ!【マグロ】【肉ソン大統領】のレビューに結構来ていただいてるみたいで。お店のFacebookで紹介していただいたみたいで照れますな!! http:...
【食べ歩き】ラムと牛タンを抱いて溺死しろ!!「めり乃」最近、なんとなく真面目に語ったり語ったり、アフィっぽいことしたりしてたんですが、一瞬仕事がショート仕掛けた状態でネタが尽きて我に返りまし...
【肉】都会とダイエットに疲れたから「焼ジビエ罠」で肉を貪って野生に帰ってくる【ダイエット】無性に体が野生に帰りたい瞬間があるんだよ…。 ジョウスィが面倒くさいこと言ってきた時とか、無茶ぶりの案件に頭抱えてる時とか…。 肉...