ADHDの治療薬、ストラテラ(ジェネリックはアクセプタ他、アトモキセチン)は、スマートドラッグとして個人輸入の規制対象になった。
「スマートドラッグ」27品目、処方箋ない個人輸入禁止:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASKCG66DZKCGULBJ016.html
規制対象に決まったのは、てんかん薬「ピラセタム」や注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療薬「アトモキセチン」、意識障害改善薬「シチコリン」など27品目。
これまでは個人使用のためであれば1、2カ月分は輸入できた。今後は医師の処方箋や指示書がなければ個人輸入ができなくなる。ただし、海外で薬を処方された人が来日するときに持ち込むことは認める。
アトモキセチンの効果を利用して、本来の用途ではなく「手軽に頭が良くなる」スマートドラッグとして使ってる人の存在が問題になってるのは一つとして間違いないわけです。
ノルアドレナリンの再吸収を阻害する「アトモキセチン」を主成分とするストラテラは、気が散りやすく集中できないADHD諸氏の集中力を高め「普通」にしてくれる救世主みたいなお薬。
じゃあこれを定型発達者、いわゆる普通の人がドーピング目的で飲むとどうなるのか?
当然だけど健康を害することになる。
最近「ストラテラ ダイエット」「ストラテラ 痩せる」「ストラテラ 集中力」「ストラテラ 記憶力」などのキーワードで来る人が増えたので、ADHDであり服用している当事者として、改めてしっかり話したいなと。
ストラテラのジェネリックについて調べに来た方はこちら。

ストラテラで痩せるのはノルアドレナリンの影響が大きい
ストラテラを飲むと痩せるという話はよく出る。食欲が抑制され、ADHDにありがちな「目が食べたい」状態からの「だらだらとながら食べ」が解消されるので、摂取カロリーが減って自然と痩せるわけだ。
子供は成長に影響が出るので親が注意するよう指示されるほど、制御不能で衝動的な食欲が消え失せる。
じゃあなぜ食欲が減るのかというと、薬で胃が荒れるだけでなく、ノルアドレナリンの影響がある。(もちろん胃もかなり荒れる、正直めっちゃくちゃ荒れる。空腹で飲むと吐き気との戦いになる)
ノルアドレナリンの効果は多岐にわたる。
その一つが食欲の低下と、血圧の上昇、血中遊離脂肪酸の上昇。
ノルアドレナリンは外部のストレスに対して放出される「ストレスホルモン」だから、これが大量に出てる状態というのは、ようするに外敵に対する臨戦態勢。
集中力や判断力、注意力を高め、長期記憶や学習能力を上げ、体が緊張した興奮状態になり、血中にはエネルギー源になる血中遊離脂肪酸が溢れ出す。
fight or flight、戦うか逃げるか。まさに生存本能そのもの。
肉食獣の気配を察知して、気配を探りながら逃げるモードに入った草食獣とか想像して欲しい。生きるか死ぬかの瀬戸際だ。
臨戦状態でお腹空いたとか言ってられんので、当たり前だけど食欲は減る。
速攻で筋肉にエネルギーを供給して瞬発力を高めるため、体の脂肪はもりもり分解されて血圧が上がった血管を走り抜け、体の隅々の細胞まで駆け巡る。
ノルアドレナリンからアドレナリンが生まれ、身体はまさに完全な臨戦態勢。エネルギーをもりもり消費しながら戦いモード。
能書きは置いておいて、そんな状況を作るストラテラを飲んでると痩せるよね。
普通は20分掛けて有酸素運動を続けて、ようやくダイエットに有効なレベルな濃度まで血中遊離脂肪酸が増える。
でも薬が効いてる間は脳の中のノルアドレナリン濃度は上がりっぱなし。遊離脂肪酸も出っぱなし。
血圧が上がり、代謝が上がり、脂肪が分解されて消費待ち。理想のダイエット待機状態ですよね。
ノルアドレナリンが多いと学習能力が上がり、長期記憶ができる
ノルアドレナリンは危機的状況に際して放出される。
危機的な状況を打破して生還するための生存本能のようなものだ。
つまり、次に同じ状況が訪れた時はより効率よく打破するため、学習能力が必要だ。同時にそれを覚えておくため、長期記憶も必要になる。
生き残るという一点において非常に合理的な理由で、ノルアドレナリンは「集中力を高め、学習能力と記憶力を増強」している。
そして同時に、ストレスに対する耐性と順応も上げてくれる。これも生き残るための本能。
常に緊張しっぱなしじゃ上手く生き残れないからね。
初めての状況で緊張したことを学習し、順応させ、耐性をつけていく。いわゆる「場馴れする」「度胸がつく」のも脳みその合理的な化学反応。
つまり、勉強したことを強化された学習能力で吸収、長期間しっかりと記憶し、緊張しやすい試験本番でもストレスに耐性を持って、高いパフォーマンスを発揮できる。
受験にはもってこい、学習効率も上がるし頭冴え冴え!最高の学習環境!
ノルアドレナリンの別名は怒りのホルモン
さて、ここまで理想のダイエット状態や学習状態を作ると説明してきたが、ノルアドレナリンにはもう一つの側面がある。
ノルアドレナリンはストレスに対して放出されるストレスホルモンで、またの名を「怒りのホルモン」という。
なにかにイライラして腹が立ち、怒り狂っている時、脳の中にはノルアドレナリンがたっぷり出ている。
外的なストレスは様々だから、誰かに敵対的な態度を取られるのはもちろん、締切が近い…とか、やらなきゃいけないことがたくさんある…とかでも出る。
ちなみに、スポーツ観戦やライブのような、テンションアゲアゲでハイになってる時もいっぱい出てる。
ノルアドレナリン、意外とガバガバ判定で出てる。
なにはともあれ、ノルアドレナリンが大量に脳の中にいる状態というのは、つまるところリラックスとは対極の興奮状態にある。
このノルアドレナリンが過多のまま維持されるとどうなるのか。
ストラテラはノルアドレナリン再取り込み阻害薬
ストラテラの主成分「アトモキセチン塩酸塩」はノルアドレナリントランスポーターだけを阻害する。
ノルアドレナリンの前駆物質であるドーパミンには作用しないから、依存性も少なく副作用は軽い。と言われている。
つまり服用するだけで意図的にノルアドレナリン過多の状況が作れる。
生まれつきノルアドレナリンを再吸収する脳の構造によって常に濃度が下がりっぱなしのADHDと違い、受容体に問題のない普通の人がストラテラを服用するとどうなるのか。
脳みその中がノルアドレナリンとアドレナリンでどっぱどぱ。
常に興奮しながら緊張し、集中しっぱなしの状態だ。
ノルアドレナリンは集中力を高めるがイライラもMAXだ
集中力を高め、学習能力や記憶力、更にはストレス耐性まで付与してくれるノルアドレナリン。
最強のバッファーだが、同時に怒りのホルモンと呼ばれるだけあって怒りに支配されてキレやすくなる。
ノルアドレナリンが過剰に出っぱなしの状況はどうなるかというと…。
「あの人怒りっぽいよねえ」「カルシウム足りてないんじゃない?」「ストレス溜まってんのかも」って言われる状況、あるだろう。まさにあれ。
ノルアドレナリンは交感神経系を強く刺激する。そして攻撃性や恐怖感を増す作用がある。
必要なときには攻撃するか逃げるか、神経を研ぎ澄ませる生存本能だ。
だがしかし、過剰に出てると「イライラして攻撃的でキレやすく、落ち着かない」状態になる。
つまり周りからの評価はいつも苛ついてて、キレやすくて落ち着かない人になっちゃうわけだ。
過ぎたるは及ばざるが如し。
ADHDの人間は、瞬間的に怒っても持続しない。それは本来の性格以上に化学的な反応だ。
答えは簡単、ノルアドレナリンの濃度が普通の人より薄いから。
偶に臨界に達したストレスに防御本能が刺激されて、ほんの僅かな時間だけ脳の中のノルアドレナリンの濃度が高まると、一瞬怒りが爆発する。
その時の脳の回転は凄まじく早い。はるか昔のことまで走馬灯のように思い出し、大噴火して大荒れに荒れて怒り狂う。
しかし、大抵は30分もすると「あの怒りは一体どこへ?!」と思うほどケロッとして、本人すら「まあ、もういいや」と思う。
ADHDがブチギレて暴れてる時は、迷惑をかけて申し訳ないが、そっと目をそらしてそのままにしておいてくれ。
大丈夫、蒸し返さなければすぐに大人しくなるし、本当にすぐに忘れる。

普通の人にはストラテラの副作用はリスクが大きい
ノルアドレナリンの効果はすごいけど、当然、反動だってすごい。
交感神経系を刺激して血圧や血糖値を上げる作用があるが、血糖値が上がりっぱなしになれば血管内部はボロボロに傷つくし、高血糖が続いてれば当然身体には良くない。
交感神経が刺激され続けると副交感神経の動きは弱くなる。
緊張状態では胃腸の働きが弱くなるのはすでに知られてるけど、つまり消化吸収が悪くなる。
睡眠の質も悪くなるし、眠ってる間に出る成長ホルモンが減るから細胞の修復だって遅くなる、老化も進む。
ノルアドレナリンが過剰な状態が続けば、高血糖高血圧からくる心筋梗塞や脳梗塞、メタボリックシンドローム、糖尿病のリスクはダダ上がりだ。
遊離脂肪酸が過剰になるとどうなるのか
遊離脂肪酸が過剰な状態が続いて耐糖能が悪化することを脂肪毒性というそうな。
耐糖能が悪化するとインスリンの効きが悪くなる。
ようするに糖尿病だ、ウェルカム成人病ワールド。
本来なら糖尿病になるはずじゃない人も、薬で作ったノルアドレナリン過多状態でめでたく糖尿予備軍にランクインだ。
きゃ、やったね!★
眠りの質の悪化はなにを引き起こすのか
脳がリラックスした状態になれないと、まず体の疲れが取れない。
眠って夢を見ることである程度のストレスが発散されるけど、ノルアドレナリンたっぷりの脳みそは「のたうち回るほど眠いのに、頭の芯が冴えてる」状態で到底眠れるもんじゃない。
多くのストラテラ服用者が味わう、「気が狂うほど眠いのに意識が落ちない、眠れない」「薬が切れた瞬間に意識のスイッチがオフになる」という現象だ。
私も経験があるから言うけど、正直言って地獄。眠くて眠くて、睡眠導入剤を最大量飲んでいても長い夜を明け方までのたうち回る。
ノルアドレナリンの作用を抑えてリラックスさせるのはセロトニンだけど、薬で再吸収を阻害して過多になってるノルアドレナリンには足りない。
セロトニンが不足していると心のバランスが崩れて感情にブレーキをかけられなくなる。不安になったり悲しくなったり、些細なことが気になって落ち着かなくなる。
深く眠れなくなり、寝付きが悪く頻繁に目が覚める。
そして最終的には睡眠不足からの鬱になる。

ストラテラ自体の副作用だって重いやつはヤバいぞ
軽いところで胃の膨満感、吐き気、鈍い頭痛、眠気、口の渇き、腹痛、嘔吐感、悪心、便秘、浮動性めまい、動悸。
重篤なやつは全身の浮腫、肝機能障害、黄疸、肝不全。
アナフィラキシーショックもある。そう、コイツはれっきとした治療薬。
ちなみに投与初期の自殺念慮のリスクが大きいお薬でもある。
飲むだけで簡単に痩せたり勉強ができるようになる、お手軽で依存のない魔法の薬じゃない。
何度も言うけど、処方箋が必要な薬です。
個人で輸入できるのは事実なんだけど、リスクはすごく大きい。(2019年1月1日から規制されたよ→脳機能の向上等を標ぼうする医薬品等を個人輸入する場合の取扱いについて)
手軽に頭が良くなろうとして、ただのイライラして不安定で不眠の人になりますか?
簡単飲むだけの痩せ薬として飲んで、高度肥満と同じ生活習慣病リスクを抱えますか?
必要のない人が服用して事故が起きると、やっと治療薬という救いができた人たちにも、そしてその周囲の人たちにも迷惑が及ぶ。
それを考えて服用はやめて欲しい。

当事者の直球の本音
直球で言うと、向く向かない以前に、治療薬なんでそういう使い方は勘弁して下さい。
発達障害にとってはようやく蜘蛛の糸のように降りてきた薬。
ドラッグ扱いは本当に当事者にとっては地獄です。ぶっちゃけ直球で大迷惑です。
今まで薬価の高いストラテラしかなかったけど、ようやく沢井製薬などから国内向けのジェネリックが承認されました。
大人のADHDにとって、生きていくために対人摩擦を減らす数少ない方法のひとつなんです。
お肌に良いからーってヒルドイド塗ったくったアホちんのおかげで、本当にヒルドイドがないと困る人たちが入手困難になるかもって騒ぎが起きましたが、ストラテラが同じ道を辿らない保証はない。
ということで、「飲むだけで記憶力と集中力が上がるなら使って試験とか楽したい~」とか「飲むだけでなにもしなくても痩せるとか最高~」とか思ってるお馬鹿さんは助走つけてはたきますよ。
国内で承認されたジェネリックについてはこっちをどうぞ。

ADHDとASDの当事者の、ストラテラ服用にまつわる色々とか、仕事の話とか、ライフハックとか。
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